センスよく生きようよ
著者紹介:秋川リサ

第17回

褒めて育てる時代

明治生まれの祖母に育てられた私だが、当時の子育て、いや孫育ては、体罰当然。今だったら家族からのパワハラ、虐待ありと言われても仕方なかったかもしれない。

祖母は、着物を仕立てる内職をしていたので、常に側には竹製の物差し、約1メートルの竹尺を持っていて、よくそれで叩かれた。
しかも、その竹尺の中心が真ん中くらいまで綺麗に割れていて、それで叩かれると、ビューンという音とともに、2枚に割れているしなった竹が、微妙な時間差で、手などにあたり、竹の割れ目に皮膚が挟まれ、しっかりと叩かれた後が直線に残った。

また、食事のマナーなどが悪いと、
「何度言っても、わからないのなら、お灸を据えますよ」
と言われ、仏壇のお線香に火をつけて、手の甲にジュッとされたこともある。
今だったら児童相談所行きか?
祖母の死後、手の甲にうっすら残っている2ミリサイズのお線香の痕を見ては、祖母とのさまざまな思い出に、涙、感謝。私の根本をつくってくれた祖母を、体罰を受けたからといって、一度として恨んだことはない。

私は5、6歳の頃から、子どもながら、大人の矛盾もわかっていた。
「人の悪口を陰で言うなんて、そんな卑怯な人間になってはいけない。言いたいことは本人の前で、正々堂々と言いなさい」
と私の前では、言うわりに、近所のおばさんと、そこの嫁の悪口を言っている祖母の姿をよく見ては、大人って嘘つきだなぁって、心の中で笑っていた。

そう、子どもだからって、子どもを子ども扱いしたいのは、大人の願望で、子どもは意外に冷静に大人の矛盾を見抜いている。
最近よく見かけるが、
「仕方ないのよ、子どもだから、じっとしていられないの 。走り回るのは 子どもだから」
ファミレスなので、そういう言いわけをしながら、ママ会をしている人たちの子どもは、 親から走り回っていいという、お墨付きをもらって、ギャーギャー騒ぎながら、走り回る。

熱い食べ物などをサーブする従業員たちの周りを駆け回って、さすがに、
「危ないので、お席に戻るよう言ってください」
と親が言われても、
「あらぁ、ごめんなさい。でも、子どもだから仕方ないのよ。あなたも、子どもを持ったらわかるわよ。まだ、お若いからわかんないでしょうけど」
躾ができないことを、子どもだからという言いわけで、親が子どもたちを野放しにする。
彼ら(子どもたち)はわかっている。
「道路で走ってはいけません。車とかが急に出てきたら、どうするのか?」
と目くじら立てて日頃言ってる母親が、ファミレスでのママ会では、自分たちの時間を謳歌したいために、野放しにしてくれる矛盾を。

私は、一度、そんな子どもたちの親分らしき子どもを、トイレの前でとっ捕まえて、低い声で静かに、だが、かなり目つきは怖めで、こう言った。
「ここは公園ではないのよ。このレストランは、犬もOKだから、うちの犬も一緒にいるけれど、犬だってわかってるの。
ここは、人間がご飯食べるところで、走り回るところではないって。あなただって、本当はわかっているんでしょう。ここで走り回るのはよくないって」
親分肌のちょっと小太りの少年は、仲間たちに、
「席に戻ろうぜ。なんか飲もう、喉乾いた」
と言って、母親たちのところに戻っていった。

急に静かになって戻ってきた子どもたちに、ママたちはこう言った。
「えーー、どうしたのぉ〜? 自由にしていいのよぉ〜。
フリードリンクなんだからぁ〜。好きなもの、好きなだけ持ってきてぇ、飲みなさ〜い!
好きな席に移ってもいいよぉ〜。ほらぁ〜、あっちの席、空いてるから、あっちに行って、飲みなさ〜い」
と言って、ママたちは自分たちの話題に戻った。

子どもたちは、近くの席に座っていた私の顔色を見た。
私は、にっこり笑って、親たちが言った、あっちの席を手で、どうぞという仕草をした。
もちろん、これは、お店にはいい迷惑だが、走り回られるよりはましだろう。そんなに 混んでいるわけでもないし。
それにしても、子どもだから仕方がないのよ!って 本当か?

自分の子どもの頃を思い出してみよう。
私もそうだったが、意外と子どもの頃から、大人は矛盾だらけって、わかっていなかったっけ?
だから、これ以上やったら怒られるとか、これ以上怠けたらやばいとか、今日は 親になんかあったらしい! 機嫌悪そうだから、とばっちりくわないために、ちょっとおとなしくしてようとか、思わなかった?

子どもながらに、気をつかうときもあれば、バレない、いや、もしかしたらバレていたかもしれないけれど、ちょっとした悪さもしたよね。
おばあちゃんのお財布から20円ネコババするとか!
でも、その次の日に、駄菓子屋でこっそり、なんか食べたりすると、
「家族に隠れて、一人でへんなもの食べて、赤痢になって死んじゃった同級生が昔いたわ。
まあ、この時代は赤痢で死ぬこともないだろうけど。抗生物質って、ありがたいね」
と祖母に言われ、わかっていて言ったのか、偶然だったのか、未だにわからないが、急にお腹が痛くなって、
(もう、絶対に駄菓子で、隠れてなんか食べない)
と心に決めたこともある。

時代も変わり、体罰はよくないという子育てが主流で、今は褒めて子どもを育てることが 理想だと言われる。
社会人一年生たちの研修期間でも、互いに相手を褒めあう訓練をする企業が増えたという。
たしかに、褒められることで、子どもたちだけではなく、人は自信を持つ原動力になるだろう。

私は決して体罰推進派ではないが、
「自由でいいのよぉ、子どもなんだからぁ」
自由には、自己責任がついてまわるということも教えず、自由主義? 放任主義? と言うよりも、野放し子育ては、どうなんだろう?