センスよく生きようよ
著者紹介:秋川リサ

第12回

十余年ぶりのシカゴ

久々にアメリカに行く。
何故は後に書くとして、まず、成田空港の変わりように驚いた。
最近は、アジアに向けての渡航は、羽田のほうが近いし便利だしという理由で、羽田を利用していた。
だから、成田空港を利用するのは久しぶり。

かつては、成田空港開港直後から何度も利用していたが、当時の空港のイメージは、でかいコンテナを繋いだ四角い建物という感じで、他国の国際空港に比べると、なんだか殺風景だなと思っていた。
もちろん、それはヨーロッパやアメリカなどのハブ空港と比較しているので、場所によっては、こぢんまりした国際空港もあるけれど、それぞれお国柄、場所柄を反映させた建物も多く、それらに比べると、日本の成田空港でありながら、お国柄も出ているようには感じず、何だかなぁ、と感じていた。

今回行ってみて、驚いた。華やかになっている。そして、もう長いこと使っている空港なのに、綺麗だ。
羽田が世界一綺麗な空港として、来日した外国人たちが皆、トイレの清潔感、ゴミひとつ落ちていない通路、行き届いた清掃を褒めるが、成田も捨てたもんじゃない。
今の日本人は、公共の場所の清潔感を大事にするのだろう。

かつて、1964年の東京オリンピックの際に、駅や車内から痰壷が撤去され、立ちションベンは禁止され、外国人へのマナーも教えられたと聞く。
敗戦から高度経済成長へ向かっての、それまでの日本イメージを払拭するためにも、国を挙げて国民に、よき日本!美しい日本!マナーのいい日本人!を演出したかったようだが、日本人の多くは、あまりオリンピックに関心がなかったようだ。
昨今、他国でも、はじめてのオリンピック開催にあたって、同じようなことが伝えられているが、やっぱりオリンピック後に、マナーなり、清潔感なりが変わってきていることは否めない。
日本も、最初のオリンピック後の高度経済成長とともに、国際的な日本人、グローバルな日本人を育てていったことは、今の日本の成長を見ると、成功したとも言えるかな。

そう、話は成田に戻そう。
かつては、成田空港の各ターミナルには、結構お高いレストランが数件しかなかったように思うが、今や回転寿司やピザショップ、ヴェジタリアン専門店やショットバー、少し早めに行って、食を楽しむのもいい。さまざまなお土産屋さんで、お土産も買って。
私たちもそうした。

今回は、22歳のアメリカ人青年とのシカゴへの旅。
彼は、わが家に3月から住んでいる。日本で働くために。
私の友人が、彼を紹介してくれた。
シカゴ大学の学生時代、京大に交換留学生で2年、日本にやってきて、両校の卒業とともに、日本で働くことを決めたという。
彼、ザックは流暢に日本語を話す。
「僕は早く単位を取ったから、4月から日本の新規採用の人たちと一緒に働くことにした。でも、両親が卒業式だけは出てって言うんだ。大事な家族のセレモニーだからって」

思い当たる、この両親の思い。
わが家の息子は、高校、大学とアメリカで過ごした。やはり、彼も早く単位を取り、新規採用で2008年の4月から、東京にある企業で働き始めた。
でも、卒業式だけはアメリカに戻って、出てくれるものと信じていた。そして、卒業式後、家族でアメリカ横断旅行をしたかった。
これは、彼をアメリカに送り出した時からの私の夢だった。
昔、何かの映画で見た、黒いマントに黒い四角い帽子を被り、卒業証書をもらった後、 卒業生一同、空に向かって帽子を投げて、卒業の喜びを讃え合う。それを家族で見たかったのに。
「ママ、会社に入って研修期間中に、そんな長い休み取れると思う?」
と息子に言われ、私の夢は見事に崩れた。

その話を、ザックを紹介してくれた友人からザックが聞き、
「リサ、僕の卒業式に来ればいい。ママもパパも、リサに会いたがっているよ。一緒に行こう。そして、その後、僕のハリウッドの実家に泊まればいい」
彼は、新規採用の面接の時に、卒業式にアメリカに戻ることを条件にしたという。
息子よ、何故、お前は、それをしてくれなかったの。
まあ、勤勉な日本人的であるとも言える。

ザックは、息子や娘とも、何度も会っているので、話はトントン拍子に進み、子どもたちと友人たちの、私へのお誕生日プレゼントということになって、私はザックと成田空港に来たわけだ。
出国手続きも、昔とは違う。たった1枚の紙に記されている航空会社の情報を画面に打ちこみ、荷物を預け、税関を通る。
「リサ、卒業式の前祝い。飛行機の中で爆睡するためにも、たっぷり飲もう、お酒ね」
22歳の青年に、リサと呼ばれるのも、ちょっと嬉しい。

バーで飲んでいると、この不思議なカップル!?に、外国人はいろいろ話しかけてくる。
ザックが、事の成り行きを説明すると、
「コングラッチュレーション‼︎ 夢が叶ってよかったね!」
と口々に言ってくれる。
シカゴまで、14時間。
こんなに飛行機の座席って、狭かったっけ?と思いつつ、今や、飛行機業界も、いくらまで料金を値下げして満席にするかの、激戦商法。
誕生日プレゼントに子どもたちはアメリカの飛行機会社を選んではくれたが、エコノミー。故に昔のようには、リクライニングもできず、大変なんだな、この業界も、生き残るには、と、へんに納得した。

1日以上かけて南米にしょっちゅう出張している友人が、
「絶対、エコノミーで行くのは無理。せめてビジネスクラスでなきゃ眠れもしない」
と言っていたのを思い出した。
おかげさまで、お酒のせいもあり、なんとか眠れた。いや、無理矢理寝たが、正直、今度は、ビジネスにしたいなと思った。
シカゴで3日間過ごした後は、ハリウッドに行きます。