第88回
鋤焼や和気藹藹の喧嘩箸
(すきやきやわきあいあいのけんかばし)浜 明史
「よっしゃ! そろそろいけるで!」と父の繁雄がスキヤキが出来たことを告げる。
「わあ、久しぶりのスキヤキやね~。あんたら、さあ、食べよし」と母の房代。
「そのでかい肉いただき! あ、あかんで。それ、僕のやで!」と弟の聡。
「そんなもん、早いもんがちやがな。そっちの肉も先にもろとこ」と兄の靖。
「こら! 靖、そないな卑しいことせんとき。食べてから次取りなはれ」と房代。
それでも靖は肉ばかりを素早く取る始末。聡はついに泣きだしてしまう。
「ドアホ! こら、靖、お前だけの肉ちゃうねんぞ!」と繁雄がぶちぎれる。
「おとはん、こりゃ、肉取り合戦やで。ある意味、喧嘩やねんで」と靖、居直る。
「何がある意味、やねん! せっかくのスキヤキやのに和気藹々と食べんかいな。
見てみい、聡、泣いてるやんけ。スキヤキで弟を泣かすな!」と繁雄が一喝。
靖が父の大目玉にしょげているあいだに、
涙を拭いた聡、透(す)かさず肉を奪う。