ねこもかぞく
著者紹介(解説):堀本裕樹 著者紹介(マンガ):ねこまき

今日の俳句

第34回

一から十分る妻ゐて冷奴

(いちからじゅうわかるつまいてひややっこ)

藤本蓼巴

この句から長いあいだ連れ添っている夫婦の姿が見えてくる。
「一から十分る妻」は、夫のあらゆる好みをはじめ、
暮らしのなかでのさまざまな習慣を熟知しているのだろう。

たとえば、夏の季語である「冷奴」の食べ方のことも
その一つである。
まず木綿豆腐がいいのか、絹ごし豆腐がいいのか。
豆腐選びから夫の好みは始まっている。
いや、その前にどこそこのお店の豆腐がいいというところまで
決まっているかもしれない。

それから、冷奴をどのようにして食べるのか。
薬味は葱(ねぎ)だけなのか、
必ずすりおろした生姜(しょうが)を添えるのか、
それともそこに刻んだ茗荷(みょうが)も必要なのか。
その冷奴にどんな酒を添えるのかも
夫の好みがあるかもしれない。

とにかく妻は冷奴一つ取っても、夫の好みに気を配っている。
それが長いあいだ連れ添ったこの夫婦のかたちであり
愛情なのだろう。
夫の感謝がささやかな冷奴に託されている。