本書の内容
現代を理解するには、SF×倫理学が必要だ!
SF作品には、現実より科学技術が発展した社会や現実とかけ離れた世界が描かれている。そういった物語を臨場感をもって体験することで、「人工知能が人間を管理することは望ましいのか」「ロボットと人間の境目はどこか」「なぜ環境を守らなければいけないのか」「差別はなぜ悪いのか」「パンデミック下の社会でどう生きるべきか」「不死ははたして望ましいのか」といった倫理に関する問いをリアルなものとして考えることができる。
また、生成AIの台頭、異常気象、不老長寿など、SFで描かれてきた世界が現実化しつつあるいま、SF作品を倫理学の視点で読むことは、現実に起こりうる問題を考えることでもある。日本には優れたSFマンガが数多くある。本書では21作品から、倫理学の問いを考える。
目 次
プロローグ
序章:倫理とは、倫理学とは
1 倫理とは何か
2 倫理学とは何か
第1章:生命と操作の倫理
1 人間のクローンをつくることは許されるのか?
――手塚治虫『火の鳥 生命編』
2 人間と動物のキメラをつくることは許されるのか?
――五十嵐大介『ディザインズ』
3 どの生命をどこまで配慮すればよいのか?
――荒川弘『鋼の錬金術師』
第2章:環境と社会の倫理
1 なぜ自然を守らなければならないのか?
――岩明均『寄生獣』
2 人類の存続は宇宙進出の根拠となるか?
――弐瓶勉『シドニアの騎士』
3 人間と動物の共生とはどのようなものか?
――板垣巴留『BEASTARS』
第3章:知能と設計の倫理
1 ロボットはどうあるべきか?
――石ノ森章太郎『人造人間キカイダー』
2 人間とロボットに境界はあるのか?
――平沢ゆうな『鍵つきテラリウム』
3 記憶能力を拡張することは許されるのか?
――山田胡瓜『AI(アイ)の遺電子』
第4章:管理と自由の倫理
1 人工知能による統治は許されるのか?
――竹宮惠子『地球(テラ)へ…』
2 恋愛は不道徳か?
――吟鳥子『きみを死なせないための物語(ストーリア)』
3 もっとも優先すべきは健康か?
――伊藤計劃・三巷文『ハーモニー』
第5章:差別と抵抗の倫理
1 差別はなぜ悪いのか?
――萩尾望都『スター・レッド』
2 身体的特徴のちがいは差別につながるのか?
――松本零士『銀河鉄道999』
3 無意識の偏見とどう向き合えばよいか?
――庄司創『三文未来の家庭訪問』
第6章:文明と未来の倫理
1 サイボーグ技術は自分のアイデンティティを脅かすか?
――士郎正宗『攻殻機動隊』
2 文明崩壊後の世界で生きることに意味はあるのか?
――つくみず『少女終末旅行』
3 パンデミック下の社会で他人をどう配慮すべきか?
――森泉岳土『アスリープ』
第7章:人生と価値の倫理
1 変容的経験に人生は翻弄されるのか?
――諫山創『進撃の巨人』
2 不死は私たちにとって望ましいか?
――手塚治虫『火の鳥 未来編』
3 人生は不条理か?
――施川ユウキ『銀河の死なない子供たちへ』
エピローグ
さらに考えてみたい人のために
索引
◉各章末に用語集、読書案内、参考文献あり
著者プロフィール
萬屋博喜
(よろずや・ひろゆき)
1983年、山口県に生まれ、広島県に育つ。広島工業大学環境学部准教授。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。専門は哲学、倫理学。
おもな著書に、『ヒューム――因果と自然』『メタ倫理学の最前線』(ヒューム道徳哲学の二つの顔)蝶名林亮編(以上、勁草書房)、論文に「被爆建築の美学――旧広島陸軍被服支廠を中心に」(『フィルカル』vol.7 no.2、2022 年)などがある。
担当より一言
ぜひ倫理学の問いをマンガの中に、そしてみなさんの日常に見つけてみてください。きっと、このあいまいな現代、不透明な未来を生きていく助けになるはずです。