本書の内容
愚直な名将の勝利と空論参謀の惨敗!
司馬遼太郎は小説『坂の上の雲』で、日露戦争時における満州軍第三軍の司令官・乃木希典と参謀長・伊地知幸介を無能の愚将としてこっぴどくこきおろしている。そのうえ、昭和の帝国陸軍の暗黒と、ノモンハン事件、太平洋戦争敗戦の源は彼らにあるとした。
しかし実際は、この乃木軍が、日露戦争の勝利に大きく貢献している。はじめは、主攻を助けるために旅順のロシア兵を封じ込めるだけの「補欠」的な役割であったが、その後海軍を助けるため、また主攻に加勢するために旅順を陥落させ、最終的には自分たちが主攻となり、奉天会戦を勝利へと導いたのだ。一方で、司馬は陸軍大学教官のメッケルを絶賛したが、陸軍大学で脈々と引き継がれた「メッケル軍学(攻撃重視・火力軽視・補給無視)」は、やがて陸軍参謀の服部卓四郎、辻政信、瀬島龍三によって昭和の破滅をもたらす。
本書は、多数の資料で司馬史観の「欠陥」を立証し、日露戦争以降の帝国陸軍の戦いの真相を明らかにする。
目 次
序 章 日本陸軍の愚の系譜
第1章 日露戦争:旅順攻防戦
第2章 日露戦争:遼陽・沙河会戦
第3章 日露戦争:奉天会戦
補 章 史実から目をそらした司馬史観
著者プロフィール
鈴木荘一
(すずき・そういち)
1948年、東京に生まれる。近代史研究家。
1971年東京大学経済学部卒業後、日本興行銀行にて審査、産業調査、融資、資金業務などに携わる。2001年日本興業銀行を退社し、以後歴史研究に専念、「幕末史を見直す会」代表として、活動している。
著書には『明治維新の正体』『政府に尋問の筋これあり』(以上、毎日ワンズ)、『日露戦争と日本人』『日本征服を狙ったアメリカのオレンジ計画と大正天皇』(以上、かんき出版)、『アメリカの罠に嵌った太平洋戦争』(自由社)、『幕末会津藩 松平容保の慟哭』『幕末の天才 徳川慶喜の孤独』『それでも東条英機は太平洋戦争を選んだ』『陸軍の横暴と闘った西園寺公望の失意』『昭和の宰相 近衛文麿の悲劇』『雪の二・二六』『三島由紀夫と青年将校』『名将 山本五十六の絶望』(以上、勉誠出版)などがある。
担当より一言
司馬遼太郎の作品はたしかに読みやすくおもしろい一方で、それは小説なのか、史実なのか、という問いを念頭に置いて読む必要があると考えさせられます。