本書の内容
ガラパゴスは人間の未来を映し出す鏡だ!
他の地域のものと争う競争力をもたないまま、狭い地域で育った文化が独自発展していくことをガラパゴス化といいいます。マイナスな意味合いで使われることの多い言葉ですが、その言葉の元になっている「ガラパゴス諸島」は、生物学的に極めて稀に恵まれた、奇跡の島です。
第1に奇跡なのは立地条件。南米大陸から近すぎず遠すぎず、かつ、寒流と暖流が交わる「海流の十字路」にあり、そのことが、ガラパゴスの陸と海に豊かさをもたらします。第2に進化論の聖地であるということ。ダーウィンが進化論の着想を得たのが、偶然にたどり着いたガラパゴス。第3に「謎の深海生物」チューブワームがガラパゴスの海底火山で発見されたことです。チューブワームは火山ガスをエネルギー源にして生きる驚くべき生物です。
そんなガラパゴスのリクガメなどの生物たちは、過去に人間の乱獲により絶滅しかけ、今は保護対象であると同時に観光と密漁の新たな脅威にさらされています。
長沼教授はいいます。「ガラパゴスは、人間性の変化、人間の未来を映す鏡のような存在。協調せず、利己的でも、利他的でもなく繁栄してきたガラパゴスの爬虫類たちの姿から、人間が伝統的に思い込んでいた価値観(協調性や利他性の必要性)とは別のフレッシュなライフ観を得ました」。
目 次
第1章 ガラパゴスとは
第2章 ダーウィン「進化論」の聖地
第3章 深海の聖地―ガラパゴスリフト
第4章 豊饒の海の聖地―湧昇と鉄
第5章 ガラパゴスと人間のかかわり―過去、現在、未来
著者プロフィール
長沼毅
(ながぬま・たけし)
1961年、人間初の宇宙飛行の日、三重県四日市市に生まれる。4歳からは神奈川県大和市で育つ。海洋科学技術センター(JAMSTEC、現・独立行政法人海洋研究開発機構)深海研究部研究員、カリフォルニア大学サンタバーバラ校客員研究員などを経て、現在は広島大学大学院生物圏科学研究科教授。北極、南極、深海、砂漠など世界の辺境に極限生物を探し、地球外生命を追究しつづけている吟遊科学者。主な著書に『世界をやりなおしても生命は生まれるか?』(朝日出版社)、『考えすぎる脳、楽をしたい遺伝子』(クロスメディア・パブリッシング)、『ゼロからはじめる生命のトリセツ』(角川文庫)、『生物圏の形而上学 ―宇宙・ヒト・微生物―』(青土社)、『超ヤバい話―地球・人間・エネルギーの危機と未来』(さくら舎)などがある。
担当より一言
ガラパゴスの生き物たちは協調性ゼロ、社会性ゼロ。利他も利己もないのに驚きの繁栄を遂げた。そんなガラパゴスの生き物たちの生態は、我々人間に新たな生き方、価値観を提示しているのかもしれない。