ねこもかぞく
著者紹介(解説):堀本裕樹 著者紹介(マンガ):ねこまき

今日の俳句

第48回

死にたれば人来て大根煮きはじむ

(しにたればひときてだいこたきはじむ)

下村槐太

(しもむらかいた)

むかしはこの句のようなご近所のつながりが根強く残っていたのだろう。
現代でも隣近所の結びつきが強い村落では、
亡くなった人を皆で弔(とむら)う意識が残っているのかもしれないけれど、
今の都会暮らしでは考えられない光景である。

この句の大根もスーパーで買ってきたものではなく、
畑で採れたものであろう。
冬の時季の田舎ならば、家々でふつうに大根を常備しているはずである。
これからの通夜に備え、
集まってくる縁者や知人を迎える用意の一つとして
食事の準備が黙々(もくもく)と行われているのだ。

この句では「死にたれば人来て」というふうに
至って冷静に、まるで規則で決められたように
大根を炊(た)き始める行為が詠(よ)まれているが、
この着々と弔いの準備が進められていく沈黙のなかに、
人々の深い哀悼(あいとう)の意が感じられるのである。

死んだ人に流れる時間、
生きている人に流れる時間、
大根を煮る時間がここにはある。