ねこもかぞく
著者紹介(解説):堀本裕樹 著者紹介(マンガ):ねこまき

今日の俳句

第5回

初泣を抱き廻しておりにけり

(はつなきをいだきまわしておりにけり)

寺井谷子

(てらいたにこ)

「ほらあ、俺はあかん言うたやろ。
だいたい俺の顔見て泣きやむわけないやんか」

いかにも悪役で出てきそうなごつい顔の伯父さんが、
僕の姉の赤ん坊を叔母さんに手渡しながら言った。
姉はいま買い出しに行っており、
テレビでは箱根駅伝が流れている。
画面には先ほど足をつり立ち直ったものの、
やはり不調のようで
ふらふらになって泣きながら走る選手が映っていた。
もう少しで襷(たすき)を繋(つな)ぐことができる。

「はい、はい、麻理ちゃん。ええ子やね……わあ、ますますあかんわ」
叔母さんもあっさりあきらめて、
泣きわめく麻理ちゃんをおばあちゃんに廻した。
麻理ちゃんを抱き上げたおばあちゃんが、
「よい、よい、よい」と
小刻みに麻理ちゃんを揺らしながらあやしていると、
ようやく泣きやみそうになった。

「ただいま! 麻理、ええ子にしてた?」
麻理ちゃんはお姉ちゃんの顔を見た瞬間笑い、
駅伝選手は泣き笑いの顔で襷を繋いだ。