センスよく生きようよ
著者紹介:秋川リサ

第23回

ナンパか?

近くのよく行くハンバーガーショップの一人席で遅めの昼食をとり終わり、iPadでスケジュールの入力をしていると、隣り合わせたおじさんが突然大きな声で話しかけてきた。
「あんた! こういうの使えるんだ。誰に教わったの?」
唐突にあんたと呼ばれて、ハァ〜〜?って思いつつ、なんて答えようか戸惑っていると、 こちらの返事も待たずに、
「あんた、ここらの近所? おれも近所。
あんた昼、暇してんだ。おれと同じリタイア組?
(iPadを指差しながら)あんた、こういうの、なんに役立つの?」
私はまたもやハァ〜〜と思いながら、思わずおじさんの顔をまじまじと見てしまった。

すると何を勘違いしたか、ににたにた笑いながら、
「あんた、いくつ? あんた、暇してんだったらカラオケ行かない? 
好きでしょう?カラオケ。おれ 大好き。カラオケ嫌いな奴なんていないよね。
あんた、今から行こうよ。駅前のカラオケ屋。
あそこの店、65歳以上の証明書出せば割引してくれるんだよ。
あんた 暇つぶしに 一緒に行こう」
私は はっきりと答えた。
「私、カラオケ好きではありません。暇でもありません。失礼します」
と言って、早々に店を出た。

古手のナンパか?
私の若い頃は、ナンパも合コンもなかったというか、その手のお誘いは一度も経験がなく、つまり、本当にモテなかった。
だから、はじめてのナンパに喜ぶべきだったのかもしれないが、もうちょっと、やり方があるだろう。
リタイア組と言っていたから、たぶん60代中盤以上なのだろうが、初対面の人間に、第一声「あんた」はないだろう。
しかも、あんたを連発する。その上で質問をしておきながら、こちらからの返事は待たずに、一方的にしゃべり、カラオケは好きだと決めつける。
なんでこういうおじさんが、最近多いのだろう?

無礼なおじさんは家の近所だけの話かもしれないが、そういえば私が入ったハンバーガーショップは、平日は主婦たちがグループでお茶会しているが、その中に初老のカップルを数組見つけることができた。
主婦グループも周りに気をつかうこともなく大きな笑い声をあげたり、店中に響くくらいの「うっそー〜」や「信じられな〜い」を連発して、たまにはちょっともう少し静かにできないのかしらって思う時もあったが、まあ、女子会ってこんなものよと自分に言い聞かせて、口うるさいおばさんにならないように自分を抑えていた。

初老カップルたちを観察すると、
(昔から人間観察が趣味というか、電車の中や喫茶店とかで人間見てるとちょっとおもしろいのだ)
初老カップルは、圧倒的に男が一方的にしゃべっている。
雰囲気から夫婦ではないなっていうことは、よく言うお茶飲み友だち?
もちろん、いくつになっても男友だちはいないよりいたほうがいいし お互い相方をなくしたりして、新たな相方をを探したっていい。
恋はいくつまでって決まっているわけじゃなし 老いらくの恋があったっていいじゃないか。
亡くなった家の母だって78歳で82歳の彼氏ができたんだから。
しかも4年間同棲した挙句に出戻ってきて認知症になってしまったが。

話はそれたが、若者にはいい年したじじ・ばばが気持ち悪いと映るだろうが、恋は若者たちだけの特権ではなく、人間生きている間は恋心を持っていたほうが人生楽しめる。
だからこそ初老カップルに素敵でいてほしいのだが、どうも現実にはなかなか理想の初老カップルには巡り会えない。

「チッ、本当にこの食べ物食いにくい」
ハンバーガーショップに来てハンバーガーに文句言うな。
「チッここ、日本酒ないのか? コンビニで買ってくるかな!」
図々しく持ちこみするくらいなら、バーに行け。
「おれは昔っから○○をよく知ってんだよ。友だちって言ってもいいな。
あいつも未だによく頑張ってるよ」
街で1、2回すれ違った俳優を友だち呼ばわりするな。
この、1回くらいしか会ったこともないくせに、
「おれ、○○よく知ってる」とか、
一度仕事で会ったくらいで、
「おれ、○○と友だち」
この言い回しは、年齢関係なく、男に多い。
若干女性にもいるが、圧倒的に男性が多い。
自己顕示欲なのだろう。
こういう人は、話の流れを自分に向けてやたらと自慢話をしてみんなに構ってほしいちゃんになる。
そのくせ自分に自信がないのか、やたらと有名人の名前を出しては自分をアピール、ついでに日々忙しいと多忙をアピールする。

この習性が残ったまま初老になった男性陣は、日々忙しいとアピールすることもできず昔の自分の自慢話をした後に、事件を起こしたりした有名人を引き合いに出して、年金生活の自分のほうが今は気楽に生きていると、そこをアピール。
挙句に今はひとりが淋しいから僕を構ってちょうだいとなる。
老いと共に弱気になってしまった自己顕示欲を捨てればいいのに、その勇気がない。
もっとシンプルに生きたほうがいいのにね。

盗み聞きしたんじゃないのよ。
昼間のハンバーガーショップで主婦グループの騒がしい会話に立ち向かう初老カップルの会話は、やたら声がでかくなってしまうわけで、日頃、音楽とかをイヤホンで聞くこともない私の耳には、カップルの会話が入ってきてしまうのだ。
たまに、思わず吹きだしてしまいそうな話まで耳に入るが、まさか誰かに聞かれているとは思っていないだろうから、私もぐっと我慢する。

こんな男、どこがいいのって、私が思うのは、余計なお世話だ。
初老のご婦人も淡い恋心を抱いているのがわかるから、ご自由にだが、なんかなぁ。
もうちょっとスマートな初老のカップルに出会いたいものだ。
どっちにせよ、私をまたハンバーガーショップでナンパしようとする初老の男性!
「あんた」を連発するのは、やめてくれ。