センスよく生きようよ
著者紹介:秋川リサ

第14回

旅の楽しみ方 その2

生まれて初めてパスポートを取り、飛行機にも初めて乗って、ハワイ経由でタヒチに行ったのは、16歳のときだった。
まだ、ドルは360円の時代で、円の持ち出しも10万円以内だったように記憶している。

その後、毎年、年末には、次の年のサマーキャンペーン用のコマーシャルやポスター撮影で、南国の島に1ヵ月近くロケに行っていた。
イッセイミヤケのニューヨークコレクションや、高田賢三のパリコレにも参加するたびに、アメリカやフランスにも3週間近く行っていた。
当時のファッション雑誌は、海外ロケも多く、エジプトやモロッコ、スペインと1ヵ月近くかけて撮影することもあった。

テレビ番組の海外取材で、レポーターとしても40ヵ国近く取材にも行った。
その時代、年間3ヵ月くらい日本にはいなかったように思う。
まだ雑誌社もテレビ局も予算があったんだね。今のような分刻みのスケジュールではなく、夕方には仕事を終えてスタッフ一同で街の流行りのレストランに行き、優雅に3時間近くかけて夕飯やお酒を味わっていた。
当時のヨーロッパや北欧、北アメリカなどは、日本人の観光客誘致を狙い、各政府の観光局がつきっきりでお世話してくれたから、どんなところにも入れた。

ギリシャ・エーゲ海の取材では、ギリシャ人のクルーと料理人付きの大きなヨットをチャーターして、10日間かけて島々を周り、撮影のない日はみんなで昼からワインを飲み、突然現れるイルカの大群が船と並走する姿を楽しんだ。
でも、この取材旅行で、私の旅に対する考え方が少し変わった。
それまでは、パリに着けば仕事の合間に時間を見つけては、ルイ・ヴィトンのバッグを買おう(そのときはまだ、日本では売ってなかった)とか、ニューヨークで日本では手に入らない新しい香水や化粧品を買うことばかりやっていた。
ギリシャの1週間の船旅で、何かを買おうということより、心に残る思い出のほうがずっとステキと思えた。
その街の異邦人ではあるけれど、滞在している間だけでも、そこに暮らす人々と共感できる時間をつくることのほうがずっと楽しく、思い出に残ると思った。

個人的にも海外旅行は好きで、ニューヨークに1ヵ月行ってみたり、友人とインド、アフガニスタンを5週間かけて、リュック背負っていろんな街を訪ねたりもした。
今はアフガニスタンは危ない地域となってしまったが、そのときはソ連軍が侵攻する前で、古代遺跡の中で人々が今の生活をしながら、平和に暮らしていた。
だからこそ、バーミヤンの谷の世界遺産でもあった仏像が、一部の心ない人たちに爆破されたときには、悔しさと悲しさを感じた。

アフガニスタンやインドにも、リュックひとつで行けるタレントだと知った旅番組のスタッフが、
「リサはへんぴな所やトイレが汚くても平気なタレント。野宿はもちろん、野糞だってできそうだから、安心してどんな所にも連れていける」
褒め言葉なんだろうが、まっ、確かに日本の常識が通用しない国もあるし、郷に入っては郷に従えってことで、電気のない所だろうが、衛生管理が行き届いてない所だろうが、平気だった。

あれから、もう何十年も経ち、海外ロケのチャンスも昨今ないのが残念だ。まだまだ、どんな国に行っても、郷に入っては郷に従えが出来るつもりだし、
「なんだ、この国は日本では考えられん。非常識だ」
なんて、自分の価値観を押しつけたがる、頭のかたい頑固な年寄りにはなってないつもりなのだが。

最近は、年に1~2回、娘や友人と旅行に行っている。
海外のときもあれば、国内のときもあるが、そのときの友人選び(失礼、上から目線的発言)でも、友だち選びはむずかしい。
日頃、双方の家でご飯食べたり、お芝居を観に行ったり、愚痴をお互い言い合いながら外食したり、そのときは楽しい。価値観も似ているから、長年友人でいれるのだが、旅行は別だ。

前に一度、10年以上のつきあいのある友人と、偶然同じ時期ヨーロッパに行くことになったので、お互い仕事が終わったら落ち合って、4~5日一緒に旅行しようということになった。
でも、そこで私の知らなかった彼女の一面が現れた。
彼女は社長秘書という仕事をしているせいもあるのかもしれないが、きっちりスケジュールを決め、意気揚々とやってきた。
「リサ、私、スケジュール決めるプロだから、日本に帰るまで全部私に任せてね。これ、考えているだけで楽しくて、楽しくて、絶対リサも気にいるから。あっ、そうだ、このホテル、明日チェックアウト。もっと立地条件も環境もいい、こっちより安いホテル見つけたから」

まあ、それは有難いことではあるのだが、次の朝から帰国する日まで、分刻みに近いスケジュールがびっちり決まっていた。
「今日、夜、何食べようか?」なんていうアバウトな質問など許されない。
ランチも夕飯も、すべて決まっていた。
「大丈夫、全部、予約とってあるから。で、明日は7時起床ね。ホテルで朝ごはん食べて、チェックアウトして、新しいホテルに9時にチェックインして、10時のバスで郊外にあるアウトレットに行って、お昼はそこで食べましょう。3時のバスで街に帰ってきて、 シャワー浴びて、着替えて****で夕飯。ちょっとおしゃれして行くでしょう。だって、****って、予約取るの大変なのよ! 6時に食事を予約したから、5時過ぎに行って、バーでちょっと飲んで、ディナーね。そこのお店、鴨料理がお得意だから、鴨のフルコース予約しておいた!」
「えーー、メニューも選べないのかい」――これは 私の心の声。

その後も、美術館、博物館巡りの後、観劇とディナー。
川船観光やカジノ経験など、私一人じゃ絶対やらなかったことも、たくさん経験できたが、 本当に疲れた。
旅を共にする友人選びはむずかしい。