センスよく生きようよ
著者紹介:秋川リサ

第13回

旅の楽しみ方 その1

縁あって、ザックくんのシカゴ大学の卒業式に出席することになったのは、この前、書いたけれど、卒業式当日は、朝から大雨で、野外での式典だったから大変だった。

どこの国の親でも、親心は変わらないものだ。可愛いい我が子の晴れ姿をまじかに見たいと、10時過ぎから始まる式典の3時間前から、大勢の人たちがビニールの即席雨合羽を着て席取り。
1400人の卒業生に対して、親兄弟はもとより、祖父母、親戚までやって来る。
私のような友人?というか、日本のホストファミリーも参加するから、物凄い人数が集まっていた。

10時から式は厳かに始まった。
バグパイプの行進演奏の後ろから、各学部の旗を掲げて(後でザックに聞いたところ、「あれは学部ではない。だって、シカゴ大学はリベラルアーツの大学だから、学部はない。あの旗はそれぞれチームの旗」)よく意味がわからないので、リベラルアーツを調べた。

簡単に言うと、教養学部なのだが、アメリカ・ヨーロッパのリベラルアーツの大学は、四年間、人が持つ必要がある技芸の基本と見なされる文法学・修辞学・論理学と算術・幾何・天文学・音楽を学ぶこととウィキペディアの説明だが、いまひとつ、意味がわからなかった。
ザック曰く、
「そう、日本の大学と比べて、言うのはむずかしい。リベラルアーツの大学は、専門の学問を教えるのではなく、優秀な人間をつくるっていう意味かな。
人間の基本、教養ある考え方、議論の組み立て方、適切な判断力、もちろん批判する考え方も含めて、四年間、人間づくりの勉強をするのね。
だから、何か専門分野を学びたかったら、その後、大学院で、たとえば建築とか、法律とか経済とか専門的に学ぶの。
ちょっと日本の大学とは、システム違うかも。もちろん、大学から専門の学問を教える学校もあるよ。それは、だいたいカレッジって呼ばれてる大学」
いまひとつ 納得できたわけではないが、大学のシステムは、だいぶ日本とは違うということはわかった。
うーん、わかったような気がする。

話がそれてしまったが、各旗のもと、1400人の卒業生のパレードが終わり、野外ステージの前庭中央席に学生たちが座り、学長の挨拶に始まり、有名人のスピーチ (前日までザックとザックママは、オバマ前大統領かオバマ前大統領夫人を期待していた。毎年、このスピーチは、シカゴ大学に縁のある人がおこなうそうで、オバマ夫婦は二人とも、シカゴ大学の卒業生だから)。
だが、今年はシカゴ大学卒業後、ノーベル経済学賞を取った教授が(ごめん、名前忘れた)が スピーチをした。
その後、大学に功績を挙げた教授や生徒たちが紹介され、本来なら、4時間近くかかる式典だそうだが、雨のため、演奏会などいろいろカットされ、昼過ぎに終わった。

出席者全員に、ビーフかチキンかベジタリアン用のサンドイッチと飲み物が振舞われ、それらを食べ終わった頃にやっと、雨が止んだ。
午後からは、チームに分かれて、卒業証書贈呈、そして私が夢にまで見た、あの四角い黒いふさが下がった帽子を、やっと晴れた空に飛ばすあの儀式が見られると思いきや、全員に卒業証書が渡り終わり、さーーー皆さーーん帽子投げるタイミングだよ、となったその時、誰一人帽子を投げるものもなく、三々五々解散となった。

なんでーーー、雨上がりで、濡れているから?
泥がつくのが嫌だから?
えーーーー、長年の夢が、また見られなかった。
がっかり!

次の日からザックの実家に一週間お世話になった。
ハリウッドにある、とてもステキなお家だった。
パパは、ジャズミュージシャンのマネージメント会社のオーナー。
ママは、プロのカメラマン。
ハリウッドスターたちの写真もたくさん撮っている人だ。

ザックの卒業ホームパーティーには、ザックのおじいちゃん、おばあちゃんも参加した。
数学の先生をしていたおじいちゃんは、もうリタイアして御年86歳。
いまだプロの画家として絵を描いているおばあちゃんは85歳。
二人は、600キロ離れている町から、車でハイウェイを飛ばしてやってきた。
エネルギッシュでユーモア溢れる彼らには、認知症など無縁のようだ。

35人の招待客の中には、いかにも“ザ・ハリウッド”と言わんばかりの人も現れた。
おいおい、その格好、ホームパーティーでするか?
セクシーである必要、ここではいらないでしょう。いかにもセレブ、お肌やボディーラインのメンテナンスには大金払ってます的、上から目線の人の値踏みが趣味的女経営者数人。ハリウッドで女がトップはるのは相当の度胸と努力が必要だろうと感じるいい見本だな。

ザックがボソッと言った。
「リサ、僕はあまりハリウッドが好きじゃない。人づきあいに、お金や仕事が絡むのはいいことじゃないよ。本当の友だちをつくるのは、ハリウッドではむずかしい」
もちろん、普通っぽい来客者もたくさんいたが、ザックが言わんとしていることも理解できた。

私は、居候として、サーモン寿司や太巻き、タイの柚子胡椒焼きを振る舞った。
次の日、おばあちゃん、おじいちゃんの要望で、しゃぶしゃぶをつくった。
調味料は日本から持って行ったが、土鍋や簡易コンロがないので普通の鍋でやったが、みんなとても喜んでくれた。
おばあちゃんもザックママも、次の日、土鍋と簡易コンロをアマゾンで買っていた。